「戦争よりも本がいい」 池内紀

本の話

本書は講談社の雑誌「本」に「珍品堂目録」という題名で130回連載されたエッセイをまとめたもの。130回の連載のうち、本にまとめるとき1つ落としたそうで、本書には129冊の本が紹介されている。1冊につき約3頁で紹介している。

129冊紹介されている本で、管理人が読んだことがあるものは一冊もなかった。知っている著者も少なかった。原題の「珍品堂目録」からわかるとおり、「幻の名著・奇書・稀覯本」が多い。あとがきによると後半は著者の本来書きたい本をとりあげたそうだ。辞典や図鑑なども3頁で紹介するのは難しいことだろうと思う。

入手困難な本が多く、本書で紹介された本を読むには、それなりの古書探索術と資金が必要で、管理人にはちょっと手の出せないところ。図書館で借りて読むというのは別の話で、手元におきおりにふれて読み返すことができることが本を読む楽しみのひとつだと思う。本書を読んで、本当の本好きのひとは凄いと感心した。「本が好き」とか「趣味は読書」とかちょっと簡単には言えない。

 ひところまで、小さな町にも古書店が営業していた。書棚をながめていると気がついた。べつに高尚な本が並んでいるというのではない。しかし、あきらかにただの本でもないのだった。店主の好みによって、さりげなく統一されている。
そう思って奥をのぞくと、主人が黙念と新聞を読んでいる。一冊選びとって差し出すと、「おやっ」というふうに顔をあげ、眼鏡ごしにチラッと見て、ちょっともの言いたげな顔になる。こちらもひとこと、何か言いたい気がするのだが、しかし結局、何も言わない。帰りかけると、よっこらしょと腰をあげた。足をひきずるような歩き方、片隅の一冊を手に取った。めぼしい本が入ると、きっと買っていく人がいるそうだ。
「戦争よりも本がいいね」
ひとりごとのように言って、遠くを見るような目つきをした。

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