「壁」 安部公房

本の話

高校生のときに読んで以来の再読。高校生のとき、安部公房を夢中になって読んでいた。その頃は、わかりやすいものが嫌というか怪しむというか避けていた。「お父さんお母さんを大切にしよう」とかいうCMが流れると嫌な感じがした。何か無理をして埴谷雄高やドフトエスキーを読んでいた。今は難解な本を読むというのは少なくなった。本を読むにはやはり体力が必要なんですねと実感している。

「壁」は第一部S・カルマの犯罪、第二部バベルの塔の狸、第三部赤い繭という構成になっている。著者は1951年「壁」によって芥川賞を受賞。「壁」はカフカの「審判」やシャミッソーの「影を無くした男」を思わせるような内容だが、カフカのようなどうしようもない暗さや深刻さはない。著者独特のユーモアがあり深刻さを軽減している。名前を無くしたS・カルマの犯罪とは、病院の待合室でながめていたスペインの雑誌に掲載されていた曠野風景を胸の中に取り込んでしまったことだった。第二部はバベルの塔の狸に影を喰われてしまい目玉だけになってしまった詩人の話。と書いても「壁」を読んでいない人にとっては「なんのこっちゃ」となるかもしれない。

カフカの作品を初めて読んだ時、安部公房そっくりだなと思った。時系列でいうと安部公房の作品のほうがカフカに影響を受けているているのだろうけど。文庫版「壁」の解説はなんだか難しく書かれており、「壁」以上に分かりづらい。褒めるだけの解説よりは読み応えあるけど。

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