「思いつきで世界は進む」 橋本治

本の話

橋本治さんが1月29日に亡くなられた。2月に出版された本書の帯にはすでに「追悼橋本治さん」とあり出版社の対応が素早いなあと感心した。本書は筑摩書房のPR誌「ちくま」に連載されているものを、初めから50回分をまとめて1冊にしたもの。書籍化するための編集は担当編集者が行ったそうだ。文章が掲載順に並んでおらず、話題の時系列がバラバラになっている。時系列で並べなかったのは謎。トランプ氏が大統領になっていないものが後にあったりしてちょっと違和感がある。

最初から橋本節全開で、「おやじ系週刊誌」を取り上げて考える能力なくなっていることを指摘している。加計学園問題、森本学園問題や文書捏造等があっても、内閣支持率がさほど下がらず長期政権が続くのは、やはり日本人がバカばかりになったせいと正面切って言えるのは橋本さんくらいだろう。「おバカ」とか「やれば出来る子」とか言って「ハハハ」と笑ってバカを中和するのは無知性を加速させるだけ。「恥」というものが失われた日本のこれからはどうなるのか。

トランプ氏が大統領になって何かが全て変わってしまった。本人もびっくりの大統領就任後、予想通りというか予想以上にアメリカの政治が混迷している。トランプ大統領は本気で「万里の長城」を建設するのだろうか。大統領に限らず「自分ファースト」の政治家が多く、とにかく「人の話を聞かない」。「都民ファースト」の都知事は「利権ファースト」になった感が強い。築地市場跡地に国際会議場を建設するつもりで、そんなこといつ考えたんだろうと都民じゃない管理人と言ってもしようがないけど。

Eテレの「ねほりんぱほりん」を観ていたら、凄いコスプレイヤーが出演していて、SNSへアップした画像に「いいね」する意味がわからないと怒っていた。このコスプレイヤーは衣装作りから撮影まで全て一人でこなしている。自分がこれだけ一生懸命撮影した作品に対して、こういうところが良いとか、ここがダメというコメントが欲しい。「いいね」をポチっとするだけならやめてくれと彼女は言っていた。現在彼女のSNSは非公開になっている。スマホのカメラの性能があがり、誰でも綺麗な画像を撮影できるようになり、SNSが普及すると「いいね」が欲しいひと激増した。自己承認欲求が広がって、いい画像が撮れたからアップするというのではく、「いいね」が沢山くるような画像をアップする。「インスタ映え」という言葉が流行語になっているけど、「いいね」の数が良し悪しの判断になるのは本末転倒のような気がするが。

 この半年くらい、気がつくと「自己承認欲求」という言葉をよく聞いていた。どうでもいい写真の類をSNSに上げるのは自己承認欲求だ、とか。分かりそうなものだが、よく考えると分からない。どうしてそれが「下らない自己主張ならその受け手はなくともいいが、自己承認欲求だと受け手はいるな」と気がついた。相手がいなくても勝手に出来るのが自己主張だが、自分を認めてくれる相手を必要とするのが自己承認欲求で、そう思うと「なんでそんな図々しいこと考えるんだ?」と思う。
世の中って、そんなに人のことを認めてなんかくれないよ。「あ、俺のこと認めてくれる人なんかいないんだ」と気がついて、「認められようと認められまいと、自分なりの人生を構築していくしかないな」と思って、「人生ってそんなもんだな」と思った。取っかかりがない、風の吹く広野を一人行くとか。引いた「凶」のおみくじにはそう書いてあった。そう思ってしまうと、自己承認欲求というのは、不幸な子供が求めるもので、大人が求めるようなものではないと思うのだが、今や大人は、みんな「不幸な子供」なんだろうか?
そうかもしれない。「自分はもう一人前の大人なんだ」という明確な自覚を持てなかったら、それはもう「不幸な子供」になってしまうだろう。

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