「警察庁長官狙撃事件」 清田浩司・岡部統行

本の話

1995年3月30日に起きた國松警察庁長官狙撃事件は、3月20日に起きた地下鉄サリン事件に続くオウム真理教によるテロ事件と当初考えられた。管理人の記憶でも、メディアはオウム真理教の犯行という見方が多かった。またテレビ朝日にオウム真理教の捜査をやめるようにという強拍電話があり、声紋鑑定するとあるオウム真理教信者の声に酷似していることがわかり「オウム犯行説」を後押しした。しかしながら、オウム真理教の犯行を裏付ける決定的な証拠が見つからず警察庁長官狙撃事件は2010年3月に時効が成立した。本書はテレビ朝日の狙撃事件関連番組の取材に基づいて、真犯人を突き止めるまでの記録。

警察庁長官狙撃事件は警視庁の刑事部ではなく公安部が担当した。公安部はオウム真理教によるテロ事件と初めから見なしていた。1996年10月にオウム信者の現役警察官が犯行を自供する。自供に基づいて拳銃を捨てたという神田川を探したが拳銃は見つからなかった。結局、その証拠不十分で不起訴・釈放となる。刑事部は名古屋の銀行強盗で捕まった犯人が大量の銃器を隠匿しており、警察庁長官狙撃事件の関連を調査し始めた。この犯人の名前は中村泰という。中村泰は警察庁長官狙撃事件の犯行を自供しているがなぜか起訴されなかった。中村泰の人生というか履歴が凄い。旧制水戸高校から東大へ進学するが中退。1956年に警官を拳銃で射殺して無期懲役刑。19年服役して仮出獄。2001年大阪で銀行を襲撃し警官に発砲しケガを負わせる。2002年名古屋で銀行を襲撃し、警備員に発砲し現行犯逮捕。現在無期懲役刑で岐阜刑務所に服役中。今年で90歳になる。仮出獄後、自分で偽造パスポートを作成し、渡米し銃器類を密輸入したり、射撃訓練を行っていた。武装組織「特別義勇隊」を結成していた。

警察庁長官狙撃事件で疲れた拳銃がコルト社製「コルト・パイソン」8インチ、銃弾がフェデラル社製「ホローポイント式・ナイクラッド弾」。と書いても管理人にはよくわからないがどちらも特殊なものらしい。特に拳銃は、使いこなすのが難しくそれなりの訓練をしなければならないらしい。中村泰の自供によると、犯行に使った拳銃と弾丸は伊豆大島行きの船から海中へ捨てた。犯人しか知り得ない「秘密の暴露」がいくつもあったが、肝心の拳銃と弾丸が証拠としてなかった為、公安部の「オウム犯行説」に押し切られた形となった。TVドラマでみるような公安部と刑事部との対立や組織のメンツが國松警察庁長官狙撃事件を未解決事件にしてしまったようだ。この事件に関連する別の本や他局のTV番組でも中村泰が真犯人としている。

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