「革命伝説 大逆事件2」 神崎清

本の話

2巻目「密造された爆裂弾」は、赤旗事件後から幸徳秋水が菅野スガと一緒に暮らし、宮下太吉が爆裂弾の実験を行うまでを描いている。いわゆる大逆事件で強いて事件といえるのは、宮下太吉の爆裂弾作製とその実験である。実際に、この爆裂弾計画へ関わったのは、宮下太吉、新村忠雄、菅野スガの3人といわれている。この頃の幸徳秋水は過激な活動とは一線を画し、爆裂弾による天皇暗殺計画などはかえって社会主義活動への弾圧を強めるだけだと考えていた。

菅野スガは「出獄後病症テ頭カ悪ク」療養しており、活動に加わるといっても手紙で爆裂弾の作製過程を知る程度だった。爆裂弾作製は宮下太吉がほぼ一人で行い、薬品の割合、材料や道具の調達は「天皇暗殺計画」を知らない人々が間接的に関わった。宮下太吉は勤めている製作所の同僚に道具を預けたり、爆弾に使うブリキ缶の製作を仕事の関係者に依頼したり、「天皇暗殺計画」を起こす人間としては配慮に欠けているところがある。

名古屋事件に関係した自由党残党の奥宮健之は、旧自由党が使った爆弾の製法について幸徳秋水から依頼されて、西内正基を訪ねて製法を訊いた。ところが西内正基は証人として呼び出されたとき、爆裂弾の製法について奥宮から訊かれたこともないし、教えたこともないと証言している。予審判事は両者の証言の矛盾を追及することなく訊問を打ち切ってしまった。それにも関わらず、奥予審判事は宮の証言だけを証拠として採用している。爆裂弾の製法は奥宮->幸徳->新村->宮下と流れていった。そしてこの4人は死刑となり処刑されている。

「日本のラスプーチン」と呼ばれた”穏田の神様”飯野吉三郎を管理人はこの本で初めて知った。飯野吉三郎は政財界や宮廷に人脈を持ち、怪しげな活動を行っていた。奥宮健之が大逆事件で捕まる前に何度もこの人物に会い、最後は金の無心までした為、奥宮スパイ説の原因となったようだ。もし奥宮健之がスパイだったとしたら、自分が死刑になるのは予想外だったのではないかと思うが。

 予審調書に記録されていない事柄を、あたかも証人が供述したかのようにごまかして、証拠に採用した判決文は、法律的に見て、どれくらいの権威と価値があるものなのだろうか。
予審調書を要約する際におこった文章技術上のミステークでかたづけるわけにいかない。裁判官に予断が働いていたとすれば、奥宮を天皇暗殺計画とことさらにむすびつけて罪におとすための意識的フレーム・アップ、公文書偽造にひとしい職権濫用がおこなわれたことになるのである。奥宮の証人申請(飯野吉三郎・長谷川昇三)を却下したのも、事実の隠蔽、虚構の維持を意味するものであろう。

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