「読鉄全書」 池内紀・松本典久編

本の話

列車で持って行った本を読んでしまい、小樽の書店で本書を見つけて購入。列車の中で本を読んでいないとなんとなく落ち着かない。疲れているときは寝てしまうのだが。列車で本を読むのが読鉄なら、管理人もその仲間ということになるが。以前江差線や留萌本線の無人駅近くで写真を撮っていたところ「撮鉄」のかたに話かけられたことがあった。管理人が撮影しているのは廃屋や古い建物なので、話が続かず申し訳なく思った。「撮鉄」のかたに「車に乗っていかない」と誘われて、歩いて撮影しますと返事をしてしまった。

本書は鉄道の話がでてくるエッセイ、随筆、ノンフィクション、小説等々のアンソロジー。本書のための書き下ろしの文章も入っている。今まで読んだことがない人の文章もあり面白かった。内田百閒の文章は特に面白く、新潮文庫の「阿房列車1~3」を買ってしまった。沢野ひとしの中国人女性との列車旅はちょっと羨ましかった。「読鉄全書2」が出たら買ってしまうのだろうなあ。

 マニアというほどではないが鉄道好きであって、どんなに遠くでも飛行機には乗らない。よほどのことがないかぎり鉄道で行く。そもそも文筆という自由業のありがたさで、よほどのことなどついぞない。九州であれ北海道であれ、トコトコと列車を乗り継いでいく。
マニアの言い方では「乗鉄」にあたるらしい。とすると書物旅行は「読鉄」になる。自分ではひそかに「室内七里靴」と称している。ドイツの民話に出てくるが、一歩あるけば七里を行くという魔法の靴で、ゆるりと足を運ぶだけで、まわりの風景がクルリクルリと変わっていく。読鉄旅行者は、せわしない乗鉄派とはちがって、息せき切って駅に駆けこんだりしなくてもいい。寝椅子に寝そべって珈琲を飲みながら、あの駅に佇み、この乗り物に乗っている。昨日は富士山の麓を走っていた。今日は那須連峰を左に見ている。書目を取り換えると、すぐにも上州の山々が近づいてくる。わが七里靴には、キレイな飾り紐がついており、さながら極上のグリーン車にいるごとしだ。まわりが広くとってあって、スッポリこの身が、ひとりきりの空間につつまれたぐあいである。

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