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「世界の見方の転換 全3巻」 山本義隆

本書は3冊で1000頁を超える大著。あとがきによると天文学の発展にともなう数学の歩みについて最初触れていたけれども、余りにも全体が膨大になるので削除したとのこと。本書は『磁力と重力の発見』『十六世紀文化革命』に続く3部作の最後となるもの。次の著作はいよいよ20世紀の物理学が対象かと思ったら、明治からの日本科学技術推進政策に関するものだった(今月新刊の岩波新書)。福島第一原発事故がなかったら20世紀物理学を取り上げる予定だったらしい。

ただ物理系を太陽にとるか、地球にとるかの違いだけでは、天動説も地動説も世界観の転換につながらない。アリストテレス自然学から続いてきた天と地という二元的世界観が、地球も火星や木星等と同じく太陽のまわりを周回する一つの惑星であり、恒星は遙か彼方に存在し一つの宇宙を構成しているという世界の一元化が本当の意味での革命だった。コペルニクスの地動説は、円周運動にこだわり、使用する天体観測のデータも少なく古代のデータも使ったため、プトレマイオス理論と同様に複雑なものだった。

ケプラーはティコ・ブラーエの観測データを受け継ぎ、有名な3法則を導き一元的世界観にたどり着く。といってもケプラーの動力学は、現在から見ると間違っており、力学の完成はニュートンによってなされる。ケプラーの世界観は、あくまで神が世界を創造し、自然の中にはその予兆が隠されているといったもの。ケプラーは占星術については特異な考えを持ち、プラトン主義者とみなされている。ケプラーの占星術についての考えは本書では付記として別に述べられている。

本書には有名無名様々な人物が登場し、名前を覚えるのも大変だ。管理人が興味を覚えたのはティコ・ブラーエ。国王をパトロンとして、天体観測を行いや観測用機器を開発し、天体観測所で独裁者のように振る舞う。たぶん会って話すと嫌なやつ何だろうと思うが、魅力がある人物に思える。管理人は学生のころに『重力と力学的世界像』を読んで以来、著者の科学史の著作を読み続けてきた。本書でいちおう終わりとなると思うと感慨深い(この後大著がでるかもしれないけれども)。

 十五世紀中期のポイルバッハとレギオモンタヌスにはじまり、十六世紀のコペルニクスとティコ・ブラーエに引き継がれた天文学の発展は、ケプラーにいたって、動力因にもとづく数学的な議論で説明されなおかつ観測で検証される数理物理学としての天文学、すなわち天体力学という新しい独立した学問の可能性を明らかにした。それは新しい世界の見方を開いたのである。そのさいの「新しい」の意味は、見られる世界の様相が転換したこととともに、世界を見る観点や姿勢そのものが新しくなったことでもある。こうして、中世スコラ学における、上位にある論証的な哲学的・自然学的宇宙論と、下位にある実用のための数学的・技術的天文学というヒエラルキーは破壊されていった。
 その過程はまた、北方人文主義とその後のプロテスタントの教育改革を背景にして、大学アカデミズムの教師たちだけではなく、宮廷おかかえの数学官(占星術師)や地図製作等で生計を立てる数理技能者とそれに協力する職人たちや印刷業者によって担われたのであり、中世のスコラ学の現場とは大きく様変わりしている。それは、古代の精密科学としての数学的天文学の復元と継承、つねに結果が求められる実際的技術としての占星術の興隆、そして印刷技術の誕生と精密測定技術の発展によって推進されていったのであり、主要に職人や商人や軍人によって担われた十六世紀文化革命に相補的な変革の動きであった。
 実際には、その過程を牽引してきたオーストリアをふくむドイツの天文学研究は、ケプラーをほぼ最後に、三十年戦争の混乱のなかに崩壊してゆくことになる。しかし一方における十六世紀文化革命と、他方におけるこの中部ヨーロッパにおける天文学研究の理論的・数学的・技術的発展の、その総体的な変革の流れこそが、十七世紀にイギリスやイタリアに引き継がれ、それまでは職人や魔術師や錬金術師のものであった実験の思想を取り込むことによって科学革命を生み出してゆくことになる。

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