「失敗の本質」NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

本の話

本書は、東日本大震災時福島第1原発1号機において原子炉が冷却されずになぜメルトダウンを起こしたかについて書かれたもの。とくに「非常用復水器(イソコン)」と「海水注入」に焦点があてられている。

衝撃の真実と帯にあり、何だろうと思ったら、「海水注入」で原子炉に届いた水はほぼゼロだったということ。このことが2016年の学会で原子力関係者に衝撃をあたえたと本書にあり、本当なのかと思った。当時福島第1原発の電源が復旧したとき1号機の原子炉内の温度が異様に高く、水位計も壊れておらず、注水した海水が原子炉を冷却するほど満たしていないのがわかって、注水経路を変えたことを覚えている。当時TVを見ていて、あんなに注水しているのに原子炉が冷えていないのはおかしいなあと思っていた。本書の事故に関する取材対象がほとんど東京電力の幹部社員や元社員で、「海水注入」について覚えていない人が多いというのも何かおかしな感じがした。

吉田所長も当初、注水した海水が原子炉に到達しているかどうかを疑っていたが、他号機の対応に追われ、「水位計はあてにならない」「注水しているのだから1号機の原子炉は冷却されているはず」となってしまった。テレビ会議の発言解析によると、「あるはずじゃなくではなくて、はずはやめよう、はずは。今日ははずで全部、失敗してきたから、確認しましょう、確認。いいですか」(3月13日午前9時47分)と指示していた吉田所長が「~はず」という発言を一番多くするようになっていった。不眠不休で対応していた吉田所長が3月20日に体調不良を訴えとうとう指揮権を一時返上した。東京電力本社も現場も吉田所長への依存が高く、代わりたくても代わることができない状況だった。それにしても本書の最後に吉田所長を「優れたリーダー」として何度も言及しているのには違和感があった。

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