「閑な読書人」 荻原魚雷

本の話

著者5冊目のエッセイ集。著者である荻原魚雷さんの本を読むのは2冊目。最初に読んだのが「古本暮らし」。最近、管理人は古本を買って読むことがないし、古書店へ行くこともなくなった。新刊書を読むので精一杯という感じだ。本書の帯には、本の本であり、ニートのための本とあり読み終わって成る程と思った。本書で初出が書かれていないエッセイは、荻原魚雷さんのブログ「文壇高円寺」で発表されたもの。

最初の章は、フリーライターという職業をめぐるエッセイが集められている。ライターにしてもカメラマンにしても、フリーランスで続けていくのは難しい時代。雑誌がどんどん減っており、ウェブの仕事は単価が安い。著者は大学時代にフリーライターの仕事を始め、そのまま就職せずにフリーライターを続けている。服はほとんど買わない。髪は自分で切る。食事もほぼ自炊。車の免許もなく、いまだに携帯電話を持っていない。国民年金も未加入。古本は買っても売ることで費用があまりかからない。「古本が読めて、たまに友人と酒が飲めて、寝たいときに寝る。あと年に数回、旅行(国内)ができればいいかな」という感じの生活。

本書で印象に残ったのは、書き下ろしの「杉浦日向子の隠居術」。杉浦日向子さんが漫画家だっとというのは知らなかった。杉浦日向子さんは34歳で隠居宣言し、漫画を書くのをやめた。管理人が知っているのは隠居宣言後の杉浦日向子さんだった。隠居宣言しても杉浦さんは、エッセイを書いたり、テレビにでたりしており、やりたくない仕事はやらないという「わがまま隠居」だったらしい。フリーランスでやりたくない仕事はやらないというのは死活問題になるけれども。杉浦さんは「晴れ時々隠居」という案を提案していた。

 働かなくても食べていける“本隠居”はむずかしても、「晴れ時々隠居」であれば、会社勤めをしている人にも不可能ではない。
休日、あるいはその日の仕事が終わったら、のんびり隠居然として過ごす。
隠居の価値観で生きるといってもいい。
とくに予定をつめこみすぎないことはすごく大事だ。一日のうちに、あれもこれもやろうとすると、余裕を失う。
隠居の立場からすれば、年収が多い少ないとか家が大きい小さいとか、どうでもいいことだ。
いかにのんびり、その日一日をすごせたか。ひと手間かけて、ちょっと贅沢な気分を味わえたか。いかに自分の時間を楽しむか。そこに隠居の価値がある。

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