「小説集 夏の花」 原民喜

本の話

20数年前に買って実家の本棚にずっとあった岩波文庫版「夏の花」をやっと読了。以前、広島平和記念資料館に展示されていた写真を見て気分が悪くなったせいか、原爆体験記は苦手だ。アウシュビッツ関連の本は読めるのだが。岩波文庫版「夏の花」は能楽書林版(1949年2月)のかたちをそのまま踏襲している。

妻と死別したら1年間だけ生き残ろうと考えていた原民喜は、8月6日原爆に被災し、この体験を書き残こさなければならないと考えた。「夏の花」は最初、「原子爆弾」という題名で書かれた。義弟にあたる佐々木基一が参加している「近代文学」に掲載しようとしたところ、GHQの検閲が通過する可能性がないため掲載を断念する。その後、題名を「夏の花」に変更し、また凄惨な描写の箇所を削除したかたちで「三田文学」に掲載された。「三田文学」のほうが「近代文学」よりも検閲が緩やかだったため、見逃されるかもしれないという理由で出したようだ。

「近代文学」関係者の著作を読んで、原民喜の精神がとても繊細であることを知った。このようなひとは長くは生きていられないと感じた。そんな原民喜が原爆被災の経験を、ルポタージュのような小説に仕上げたのは、生き残ったものの強い義務感からだったかもしれない。結局、原民喜は1951年3月13日中央線の線路に身を横たえて自殺する。「アウシュヴィッツは終わらない」を書いたプリーモ・レーヴィも自殺している。悲惨な経験を他者に伝えることの困難に堪えられなくなるのかもしれない。

 ギラギラノ破片ヤ

 灰色ノ燃エガラガ

 ヒロビロトシタ パノラマノヨウニ

 アカクヤケタダレタ ニンゲンノ死体ノキミョウナリズム

 スベテアッタコトカ アリエタコトナノカ

 パット剥ギトッテシマッタ アトノセカイ

 テンプシタ電車ノワキノ

 馬ノ胴ナンカノ フクラミカタハ

 プスプストケムル電線ノニオイ

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