「見捨てられた初期被爆」study2007

本の話

巻末のコラムを読んで、著者が8年近く癌の治療を行っており、粒子線治療の画像も掲載されているのに驚いた。ちなみに著者は原子核物理の研究者。小児ガンに対する著者の思いが本書に込められている感じがした。本書は少し長い論文の感じで、120ページほど。最初は資料が多くちょっと読みにくいかった。小さい本書に表やグラフが小さい文字・数字で載せてあるので老眼気味の管理人にはちょっとつらかった。

東日本大震災にともなう原子力発電所事の故直後に、どれだけの人がどの程度被爆したかはいまだにわからない。震災時においてインフラがストップし、水も電気も燃料も滞ってなかで、身体除染は遅れしまった。甲状腺スクリーニング検査も少数に限られた測定になった。現地対策本部はスクリーニング検査基準を従来の1万3000cpm(cpm:1分間あたりのカウント数)を10万cpmに緩和し、1万3000cpm~10万cpmの者には部分的な除染を実施することが周知された。ところが震災の混乱のなか、指示は徹底されず10万cpm以下の人に除染を行わなかった場所もあった。10万cpm未満のひとには、保健師が心のケア等を実施し、説明後に帰宅させた。安定ヨウ素剤の服用については何ら説明がなかった。

スクリーニング検査基準の変更は、対応する人・物資の不足のための緊急対策だったのが元に戻すことなく継続してしまった。原子力発電所の大事故は起こらないという前提のため、放射線量を測定する拠点がなく人材も配置しなかったため初期被爆を見過ごすことになってしまった。また、食料品の流通も止めることができず、経口による放射性物質摂取量も制限できなかった。低線量被曝による晩発性障害は、ある程度時間が経過しなければ結果がわからない。震災後に制定された原子力災害対策指針では、スクリーニング基準が4万cpm、経口摂取制限の基準値は放射性ヨウ素で2000Bq/kgとなっている。これらの基準値や30km避難圏の設定は震災の経験を考慮したものではなく、自治体などの受け入れ側の都合を優先させたもの。

厚生労働省が一般食品中の放射性セシウムの基準値を100Bq/kgにしたとき、管理人はなぜいま大幅な緩和するのかと思った。現在、放射性セシウムが100Bq/kg以下の食品が「安全な」食品として流通している。この緩和により、検出下限値の設定を高く誘導する失敗を招いたと著者に述べている。福島、茨城や栃木といった高リスクが懸念される県産品は震災後4年経っても検出下限値はセシウム核種(134、137)あたり3~10Bq/kg、もしくはセシウム合算で25Bq/kgという測定がほとんどらしい。震災前では0.1~0.01Bq/kgだったものが、検出下限値を25Bq/kgとしたため、実際食品がどの位汚染されているがわからなくなっている(25Bq/kg未満は見かけ上0Bq/kg)。

 放射線は避けられます。そして政府や事業者には被災住民の被ばくを防護する責任があります。希望者は負担なく移住できる十分な経済的、精神的な支援政策を講ずる義務があります。居住地の移動は困難さの度合いも大きいですが、少なくとも産地さえ選べば、原発事故前と同程度の食材も入手できます。今、その当たり前のことが難しくなっています。その原因は「100mSv以下、基準値以下、検出下限値以下」といった新安全神話にあるのかもしれません。しかしながら「ある程度なら飲食しても仕方ない」などという放射線管理区域は全国のどの研究施設・病院にもありません。線量限度が年間20mSvと規定されている放射線業務従事者でさえ、多くの費用をかけて実効線量の年間追加被ばくを平均0.05~0.2mSv程度に抑制しています。つまり、被ばくに対する専門家の本音は最初からまったく割れてなどいません。あたかも低線量に対する意見が分かれているかのような宣伝が、原発事故後に強調されるようになっただけにすぎません。
 被ばくリスクは累積線量で評価・管理するのが原則です。累積追加被ばく量が1mSVに達するまでに、JAEA平均なら20年、全放射線業務従事者平均でも5年を要します。それに対し、福島県内では事故後4年間の外部被ばくだけで実効線量10mSvを超える子どもが大勢います。この累積被ばくの子どもたちにとって既に「低」線量だとは言えません。仮に、これらの地域で2019年まで居住し続けた場合、生涯のうちに何らかの固形がんを誘発される人が100人のうち1人近くになると計算されることになります。また小児白血病に限れば、自然発生の2倍に達する可能性もあります。この被害は、規模も頻度も決して小さくはありません。安心・安全キャンペーンは予算がつかなくなれば終わります。しかし、子どもの身体に刻まれた累積被ばく線量は、後からなかったことにすることは決してできません。

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