「東京放浪記」 別役実

本の話

久しぶりに読んだ別役実さんのエッセイ集。犯罪評論や「づくし」シリーズは出版されるとすぐ購入して読んでいた。しかしながら、別役さんの本業である演劇関係については観劇したこともなければ、「ホン」を読んだこともない。本書によると、別役さんのファンには、演劇ファン、童話ファン、「づくし」ファンに分かれるそうだ。演劇ファンは比較的若者で、童話ファンは大人の女性、「づくし」ファンは中年男性が多いそうだ。管理人も中年男性なのでなるほどと納得した。

最近、「づくし」シリーズがでないなあと思っていたところ、本書が出版された。「東京放浪記」はいわば「東京街づくし」といったところ。「づくし」はおおぼらというか空想ものというかどのような嘘をつけるかというのが芸の見せ所という感じのエッセイ集だった。本書では著者が上京して関わりのあった東京の街々を取り上げている。

東京付近に住んだことがないひとには分かりづらいところがあるかもしれない。地方から上京して東京に住んだことがあるひとには思わずにやりとする文章がある。管理人も川崎市に20年以上住んでも何か「よそ者」感があった。東京の街へ行くと観光客みたいな感じなので平気で撮影ができる。何もイベントがないのに札幌でカメラをぶら下げて歩くのにはいつも抵抗がある。川崎より住んでいる年数は少ないけれども札幌はやはり地元。「よそ者」感について著者は次のように述べている。

 どんな「よそ者」も、「よそ者」でありきるわけにはいかないということを、ここへきて思い知らされつつある。もしかしたら間もなく、「お邪魔してます」という気分は消えてなくなるのかもしれない。それが私にとって唯一の、私たる所以のものかもしれないから、淋しいかぎりであるが、それもまたよいかもしれないという思いも、ないではない。
東京居住者としての「よそ者」体質から変わりつつあるせいか、このところ私は、人間としての「よそ者」感を、自分自身の中に探り出そうとしている。もしかしたら私は、「よそ者」であることを手掛かりに、すべてを理解したいと考えているのであろう。もちろん人間としての「よそ者」感というものがどういうものか、まだ私はつかめていない。理屈としては、「スパイのような気分」から「宇宙人のような気分」への転換だと言えるのだが・・・・。

著者は「パーキンソン氏病症候群」という病気になり、殆ど動けなくなったそうだ。著者は原稿を手書きしており、そのうち手に震えが来て字が書けなくなるのではないかと不安になっていると本書に書いている。出来ることなら「づくし」シリーズがもう一度出版されることを管理人は願っている。

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