「低線量放射線被曝」 今中哲二

本の話

管理人が原子力発電について調べていた頃から二十数年が経ち、最近復習も兼ねて原発関連の本をまた読んでいる。以前とは放射線量の単位が変わっており、福島原発事故のときにはちょっと戸惑ってしまった。1ベクレルとは1秒間に1回の原子核崩壊。1グレイ(吸収線量)とは被爆により生物組織1キログラムが1ジュールのエネルギーを受け取ったときの被爆量。重み付けした後の被爆量をシーベルトと呼ぶ。重み付けはアルファ線が20、ベータ線・ガンマ線が1。ベータ線やガンマ線による1グレイの被爆は1シーベルト、アルファ線による1グレイの被爆は20シーベルトとなる。

著者は「まずベクレル、シーベルトの意味を理解しなじんで下さい。そして被爆のもたらすリスク(危険性)を勉強し、被爆を受け入れるかどうか最後は自分で判断できるようになってください」と述べている。福島原発事故直後、政府の放射線量の規制値が突然甘くなり、本当に大丈夫なのかと訝しく思った。

低線量放射線被曝の場合、ある一定量の放射線を浴びてもしきい値を超えなければがん発生率は変わらないという「しきい値モデル」とがん発生率は被曝量とともに直線的増加するという「しきい値なし直線モデル」と”安全”の意味が変わってくる。福島原発事故が起きた時、「直ちに健康に影響はありません」と頻りに官房長官が言ってたのは「しきい値モデル」に基づいたものであろうと思われる。。著者は、とりあえず「しきい値なし直線モデル」を採用して考えるのが様々な批判に耐えうるもっともタフな立場だと述べている。

 福島第一原発事故によって、福島県はもちろん、宮城県から関東一円にわたって無視できないレベルの放射能汚染が生じてしまった。私たち皆が放射能汚染と向かい合わざるをえない時代になったと思っている。すなわち、汚染についてキチンとした情報をもとに、被曝量とそれにともなうリスクについて皆が理解し、どこまでガマンするかを自分たちで決めなければならない。原子力村の人たちが自分たちの権益を守るため、「100ミリシーベルト以下で影響はありません」といった個人的意見を述べるのは勝手であろうが、少なくとも汚染対策に責任をもつべき人々依拠すべき見識ではないだろう。低レベル被爆の影響について未知な部分があることは確かだが、よくわからない部分に対して予防原則の考え方で臨むのが行政のとるべき基本姿勢である。

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